Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

インド哲学における写本研究

Matsumoto2 045


インド哲学というと,やはり,インドの哲学というだけあって,哲学を目指す人が多くなります.

当然,思想そのものを問題にしたい,という態度となります.

その結果,それまでの基礎作業は,さっさと済ませたいという欲求が勝つことになります.

「サンスクリット語なんて時間かかるし,思想をやるのだから,翻訳で読めればそれでいいじゃない?」

という質問を受けることがあります.

西洋哲学なら,たしかに,多くの信頼できる翻訳があり,しかも,既に何度も翻訳されて改善されてきているので,そのようなことも可能でしょう.

しかし,インド哲学の分野では,ほぼ不可能です.

このことは,中にいる人ならば,誰でも分かります.

まともな翻訳が実に少ないからです.

昔の英訳があったりしても,使えるものは,本当に僅かです.

びっくりするくらいにいい加減です.

というわけで,しぶしぶサンスクリット語をやるにしても,その先,では,信頼できるテクストがあるか,というと,実はそれも問題となるのが,インド哲学の分野です.

西洋哲学と違って,テクスト批判すら怪しいのです.

写本に基づいてまともに校訂されたものは僅かです.

何度も出版されていても,単に,前の出版をコピーしただけというものがほとんどです.

つまり,テクストそのものが,ちゃんと校訂される必要があります.

このことも,中にいる人はよく知っています.

しかし,写本を集めるのが大変なので,とりあえず,手元にある出版本で済ませてきた,というのが現状でしょう.

いまから20年前,インド哲学の分野で写本に関わっている人というのは,ごく僅かでした.

針貝先生が,こつこつと『タントラヴァールッティカ』の写本研究を続けているのが目に留まる唯一の例です.

大前さんが,その頃,インド各地をめぐり,写本を集めていました.

というわけで,インド留学時代,各地の図書館を回ると必ず「お前はオミャーを知ってるか?」と聞かれたものです.

ベナレスの何処に写本図書館があって,誰に会って,どのように写本コピーの申請をすればよいのか,どこに泊るのが便利かなどなど,実践的な情報を教えてくれたのも,ほぼ大前さんだけでした.

誰もやっていないので,分かるわけがありません.

また,そのころはネットというものもなかったので,情報を得るのが大変でした.

大前さんがひょっこりとマドラスに来た時に,いろいろと話を伺ったのを思い出します.

しかし,いまはどうでしょう.

若手研究者の多くが,インドに渡って実際に写本に触れています.

足繁くインドに通っている若手といえば,志田,松岡,川尻の名前が思い浮かびます.

一昔前では考えられないことです.

ネットが発達したおかげで,情報の共有も早くなりました.

東文研助手の時にまとめたインド写本図書館情報も,日本人だけでなく,海外の人にも使われているようです.

日本語版

英語版

情報の共有が早くなったとはいえ,インドはインドです.

インドまで行って写本を集める,という作業が大変であることには変わりありません.

とはいえ,その大変な作業を敢えてやろうという人が出てくるのも,インドの魅力のなせるわざでしょうか.

インド調査旅行は,単に研究だけではなく,抗菌力と人間力を鍛えるのにも大いに役立ちます.(初回旅行で腹を壊すのは,ほぼ不可避でしょうけど.)

現代インド研究者の場合,「自分のフィールド」というものがあり,訪問するインドは,実は一部に限られます.

グジャラート研究者ならグジャラート,タミル研究者ならタミルナードというわけです.

ベンガル研究者は,南インドに行ったことなどなかったりします.

それは必然でしょう.

サンスクリット研究者のよいところは,対象領域がインド全国にまたがることです.

図書館は,ばらばらと各地にあります.

というわけで,土地に制限されることなく,北から南,西から東まで回ることができます.

大体,どこにいっても,サンスクリット写本の図書館があるはずです.

どんな分野も,とことん追及する楽しみというのは尽きないものです.

ベナレスまでわざわざ出かけたけど,三日間とも図書館が休み,滞在終了タイムアップ.

マドラスまで出かけて行ったけど,取り付く島もなく図書館長から(三本目以降の)写真撮影申請却下.

どんなにがんばっても駄目なものは駄目.

タンジャーブールまで出かけたけど,やっぱり写本の状態が悪いからダメ.

ティルパティまで出かけたけど,やっぱりダメ―.

またまたベナレスに出かけたけど,図書館の中での写本の場所が分からず,写本が行方不明(mislocation)だからダメ―.(写本はちゃんと元の場所に直しましょう!)

アラハバードまで出かけたけど,コピー機が壊れていて駄目.

二日目は街中でコピーしてくれることになったけど,今度は,街中が停電でやっぱりダメ―.

などなど,自分も友人も,苦労話は尽きません.

六波羅蜜の布施・忍辱・精進は向上した気がします.

熱い中,苦々しい思いをしながらも,熱く甘いチャイをフーフー飲んで癒され,失意から回復します.
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  1. 2012/08/27(月) 08:01:59|
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