Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

衆賢における「仕事」の内実

会社でバリバリ仕事をして金を稼ぐ太郎,というのが現在法のイメージです.

「働き」を持つのが現在法です.

その前の,朝早くに家にいた太郎が過去法,仕事終わって夜にジムにいることになる太郎が未来法です.

では,会社にいるのに全く仕事をしない次郎はどうなるのでしょうか?

給料泥棒の次郎です.

あるいは,何も生み出さないけど,会社には毎日御迎えの車で来る名誉顧問はどうなるのでしょうか?

給料泥棒の次郎や,名誉顧問は,生産性という働きを持ちません.

生産するのが会社員であり,働きを持つのが現在法です.

生産しないようなものは会社員ではなく,働きを持たないものは現在法ではないことになってしまいます.

つまり,次郎や顧問は,会社にいても,会社員の資格を満たさないことになってしまいます.

このように,世親は,経量部の立場にたって,有部の立場を批判します.

すなわち,働きを持つものを現在法とする世友説を,働きを持たない現在法があることを指摘して批判するのです.

彼が挙げているのは暗闇での眼です.

光があれば目は機能します.

働きを持つわけです.

眼識を立派に生み出すので,働きを持つので,現在法としての資格を満たします.

しかし,暗闇での眼は,眼識を生み出しません.

働きを持たないのです.

したがって,働きを持たない以上,現在法の資格を満たさないことになります.

同じ現在時にあっても,働く目と働かない眼とで,いっぽうは現在法と呼ばれ,他方は現在法と呼ばれないことになってしまいます.

これでは困ります.

つまり,働き(結果を与えること,生み出すこと)でもって区別することはできないのではないか,というわけです.

また,会社だけが,生産性を持つ場所でしょうか?

家でも在宅勤務が可能です.

家内制手工業であれば,家でも生産できます.

つまり,過去のものも,結果を生み出すという働きを持ちえます.

すると,過去のものも現在法ということになってしまいます.

以上,二つの問題に,有部はどのように答えればいいのでしょうか?

1.現在時のものも働きを持たないものは非現在法になってしまう

2.過去時のものも働きをもつものは現在法になってしまう

有部の衆賢は,世親の問いに答えます.

生み出す必要はない,と.

ここでいう「働き」とは,生産性のことではなくて,成果の受け取りのことだと.

つまり,会社にいるだけで何も生み出さない次郎も,これまでの成果として給料を立派に受け取ることができるのだから,それだけで十分に「働いている」と言える,というのです.

名誉顧問も,給料受け取るのが「仕事」なわけで,何も生み出す必要はないのです.

結果を受け取る(phalākṣepa, pratigrahaṇa)のが現在法の「仕事」なわけで,結果を与えることではない,と衆賢は言います.

ばりばり仕事する太郎のイメージで現在法を捉えていましたが,衆賢の考えるところによれば,給料泥棒の次郎や,会社にくるだけの名誉顧問が,純粋な意味での現在法ということになります.

つまり,「働く」というのは,会社に行って地位を享受して給料を受け取ることに過ぎない,というのが衆賢の考えです.

このように考えれば,1と2の問題はクリアーできます.

過去法は既に結果を享受し終わっているのですから,いまさら結果を享受することはありません.


インドの大学図書館に行くと,図書館員は,チャーイを飲みながら新聞を広げて,また,同僚とお喋りをしています.

そして,わたしのようなゲストが来たら,これ幸いと,日本の事情やら,あれこれと雑談をします.

それで「仕事している」わけです.

その意味では,衆賢の「仕事」のイメージのほうがインド的ではあります.

何も生み出さずとも,地位を享受してればそれでいいのです.

「スルとは,作る(与える)ではなく,貰うことだ」というわけです.

「喫茶去」の禅僧や,妙好人も,一種,こういう境地かもしれません.


しかし,せっかく「働き」という画期的な概念を時間論に持ち込んだ割に,衆賢に至っては,働きの中身が矮小化してしまったことは否めません.

働きという概念でもって現在時を固定するという基本的な発想を大事にするならば,この現在の「働き」をむしろ肥大化させて,現在法だけを認める(そして過去法や未来法は現在法の中に何らかの形で吸収してしまう)という方向の方が,理論の発展としては見込みがあります.

経量部のとった方策はまさにそのようなものでした.
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  1. 2014/02/21(金) 18:29:54|
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