Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

超道から真言道へ

超道アティマールガから真言道マントラ・マールガが展開してきます.

真言道の誕生のその最初期の姿を伝える文献が『ニシュヴァーサ・タットヴァ・サンヒター』(略称『ニシュヴァーサ』)です.

写本は五部から成ります.写本の冒頭にある『ニシュヴァーサ・ムカ』をどこに入れるかは決定的ではありません.しかし,暫定的に最後に登場したものとして取り扱うことにします.

他の四部は写本の順序通りに発展してきたのは確実です.

したがって,四部(四つの経スートラ)および『ムカ』の歴史的順序は以下の通りになります.

『ニシュヴァーサ・タットヴァ・サンヒター』(=『ニシュヴァーサ』)
1. 『ムーラ・スートラ』
2. 『ウッタラ・スートラ』
3. 『ナヤ・スートラ』
4. 『グヒヤ・スートラ』
5(?). 『ニシュヴァーサ・ムカ』

超道の代表は,五事(パンチャ・アルタ)を修行内容に掲げる五事獣主派(パンチャールティカパーシュパタ)です.担い手は修行者である出家のバラモン男性.入門式ディークシャーを受けて,解脱を目指します.

いっぽう,ここから発展してくるのが真言道マントラ・マールガです.その最初期の一派がシャイヴァ・シッダーンタと呼ばれることになる一派です.担い手はバラモン男性に限られません.在家信者の取り込みを目指して全種姓(ヴァルナ)に対象を拡大しています.一部においては,女性も含まれます.

有力なパトロンである王族その他,在家信者を取り込むためには,目標設定においても,解脱(ムクティ)のみでなく,現世利益,あるいは,超能力獲得(いわゆる成就シッディ)といった享受(ブクティ)をも含みます.在家の取り込みの結果として,目標設定にも変化が生じるとともに,入門式(或いは潔斎式)であったディークシャーの意味づけ・位置づけも変化します.

本来,入門式であったディークシャー儀礼.当然,アティマールガにおいては,入門式後は,それなりの長期間の修行が必要となります.

いっぽうシャイヴァ・シッダーンタにおいては,解脱はディークシャーにより既にもたらされています.イニシエーションにおけるシヴァによる束縛の断ち切りによって入信者は既に解脱しているのです.悪く言えば解脱の安売りですが,良く言えば易行の解脱ということです.

また,アティマールガではまだヴェーダ儀礼から継承したもの,特にヴェーダ由来の真言を用いますが,マントラマールガでは,非ヴェーダ由来の真言,すなわち,シヴァが教えた真言を用います.

以上,目標設定の拡大,ディークシャーの位置づけの変化,ディークシャー後の義務の簡素化,真言の由来に,アティマールガとマントラマールガの差異・変化を見出すことができます.

超道(アティマールガ):解脱(モークシャ),入門式(ディークシャー)
 獣主派(パーシュパタ),バラモン男性
         ↓
真言道(マントラマールガ):非ヴェーダ系マントラを儀礼に用いる解脱(ムクティ)と享受(ブクティ),イニシエーション(ディークシャー)における束縛の断ち切り,全種姓,男女(一部において)

『ニシュヴァーサ・タットヴァ・サンヒター』はシャイヴァ・シッダーンタの誕生の息吹を伝える文献です.その内部の四層でもって,初期シヴァ教の発展段階を表わしてくれています.その後,この文献は,バイラヴァ・タントラの南流(ダクシナ・スロータス,右道)である『スヴァッチャンダ・タントラ』に大きな影響を与えます.

人気のあった『スヴァッチャンダ・タントラ』は,更にその後,トリカ派の『タントラ・サドバーヴァ』に大きな影響を与えます.

このように,シヴァ教の発展を見るのに『ニシュヴァーサ』は重要な位置を占めます.

シャイヴァシッダーンタ
 『ニシュヴァーサ・タットヴァ・サンヒター』
  1. 『ムーラ・スートラ』
  2. 『ウッタラ・スートラ』
  3. 『ナヤ・スートラ』
  4. 『グヒヤ・スートラ』≒『マンジュシュリヤ・ムーラ・カルパ』に一部類似
  5. 『ニシュヴァーサ・ムカ』
     ↓
バイラヴァ・タントラ 『スヴァッチャンダ・タントラ』
     ↓
トリカ 『タントラ・サドバーヴァ』

詳しくは,Dominic Goodall 2015: The Nisvasatattvasamhitaの冒頭を参照のこと.
スポンサーサイト
  1. 2015/09/22(火) 18:00:20|
  2. 未分類

プロフィール

Aghora

Author:Aghora

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する