Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

マンダナ・ミシュラの全知者批判

インド哲学文献に言及されるsarvajña(一切智者・全知者)は,文字通り,一切を認識する者,ということです.具体的には,仏教の仏陀,サーンキヤのカピラ,ジャイナのワルダマーナ,さらには,ニヤーヤの主宰神です.このようなナンセンスな存在そのものを認めないのがバラモン正統派の聖典解釈学ミーマーンサー学派のクマーリラであり,それに連なるバッタ派です.全知者を批判するには様々な批判方法あるいは批判段階があります.知られるべき全てとは何か,全てを知ることは可能か,全てを知る人がたとえいるとしても仏陀がそうであることはない,さらには,全知者がいるというそのことを確認する証拠となる認識手段(pramāṇa)は何か,自称「全知者」本人が「自分は全知者です」と言っているだけなのか,あるいは,弟子が全知なる師匠の全知者性を確認したのか,さらには,(言語が関わる概念知を離れた)無分別の瞑想状態で(言葉を発して)説法できるのか,一部しか説かないのに全てを説いたことになるのか云々.ミーマーンサー学派の聖典論に照らせば,仏陀など,人間が作った(pauruṣeya),ヴェーダに基づかない(avaidika)宗教書(ダルマ・アダルマを扱うテクスト)は,すべて,人知に基づく妄想でしかなく,仏陀の説法は,所詮は,誤知に基づく情報であり,愚かな人達を騙して儲けようとする貪欲などの何らかの不純な動機に突き動かされたものでしかありません.

さて,マンダナは,ここに新たな批判方法を加えています.「これだけ性の批判」とでも言うべきものです.「全て」というとき,普通我々は,その全体を知っています.つまり,1,2,3,... nという全体を知った後に,「これら全て」という指示代名詞が成立します.もしその全体を知らないとすると,全てなのか一部なのかは不明となってしまいます.アラブの富豪夫人が日本のデパートに来て,「ここからここまで全部頂戴」といって服を買うとき,それは,その一列の端から端までの全ての服を指しているはずです.また,五十嵐先生はよく,駒場の授業が終わって渋谷の居酒屋にいくと,「このお薦め,上から下まで,六つ全部頂戴」という注文の仕方をしていました.これも,「全て」が何を指しているかを知ってから注文しているわけです.もし,五十嵐先生が,「全て」が何を指すか知らないならば,すなわち,6つが全てであることを知らないとしたら,店員が5皿しか持ってこなくとも気がつかないことになってしまいます.しかし,現実にはそのようなことはないわけで,「あと一つまだ来てないよ」と先生は指摘することでしょう.

仏教のヨーガ行派では,修道論において,「あらん限り性」ということを説きます.つまり,全てが空であることを知り,唯識であることを知る修道の段階においては,「全て」が何を指しているのか,その全体量を確定する必要があります.そして,次にその質(yathāvadbhāvikatā)について知らねばなりません.この最初のものがyāvadbhāvikatāであり,「あらん限りのもの性」です.これと同じものに言及するのが,マンダナの言う「これだけ性」iyattāです.これだけ,この全てが「全て」である,ということが,全知者が全てを知る際には必要となる.つまり,その量・規模の全体を知る必要があるのです.しかし,未来・現在・過去の三時に渡る,この無限なる世界の全てを知ることは可能なのでしょうか.無限ということは,限りが無いということです.(仏教では,輪廻世界には始まりが無いと考えますから,過去は無限です.同様に,未来も無限です.) つまり,それは,確定不可能ということになるはずです.もし「これだけ」という確定が可能であるならば,それは無限ではありません.つまり,「これだけ」と「無限」とは相容れないのです.無限の全てを知ることは,このように,概念的にそもそも不可能ということになります.マンダナは,このような「説明不可能」「論理的にありえないこと」(anupapatti)を彼独自の全知者批判において指摘しています.さすが,泣く子も黙るマンダナ・ミシュラ,切れ味抜群です.果たして仏教徒は,マンダナの批判にまともに答えることができるのでしょうか? 多分,無理.
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  1. 2016/12/16(金) 07:57:05|
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