Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

『ヨガ・ボディ』のカタカナ表記


インド人名などのインド関係語彙のカタカナ表記に関しては,統一や正確な表記というのは,カタカナそのものの限界がありますし,また,原語の綴りに沿うのか,あるいは,実際の発音に近くするのかなど,どのように表記するのかについては幅があるので,一概に誤りとは言えません.
次のものは,「私ならこう書くだろう」というものです.
左が喜多氏のもの,右が私の提案.特に目に付くものだけ拾ってみました.
一部,欧米人の人名も含んでいます.


『ヨガ・ボディ』
喜多千草訳

p. v
マリンソン→マランソン
ブーネマン→ビューネマン
ユジャスティク→ウジャスティック
ギャビン→ゲイヴィン

p. vi
ラクスミ・タッタカルヤ→ラクシュミー・タターチャーリヤ
シャーマ→シャルマー
シャンカー→シャンカル

p. 8
アヤンガー→アイヤンガール
バネルジェ→バナジー/バネルジー

p. 11
ヨガ・シャーラ→ヨーガ・シャーラー

p. 12
ヨガーサナガル→ヨーガアーサナガル
サンダラム→スンダラム

p. 27
ヴィンヤサ→ヴィニヤーサ

p. 33
ウトカタサナ→ウトカタアーサナ/ウトカターサナ

p. 34
ブラーマナ→ブラーフマナ
シヴェータシヴァタラ→シュヴェーターシュヴァタラ
プラティハラ→プラティアーハーラ
ディヤナ→ディヤーナ
ダラナ→ダーラナー
サマディ→サマーディ

p. 35
ヨガスートラバーシャ→ヨーガスートラバーシャ
ブロンクホースト→ブロンクホルスト

p. 36
ラクシャ→ラクシヤ
ヴァスデヴァ→ヴァースデーヴァ

p. 37
ゲランダ・サンヒター→ゲーランダ・サンヒター
ヨガ・プラディーピカー→ヨーガ・プラディーピカー
マリンソン→マランソン

p. 38
アーロギャ→アーローギヤ
マユラサナ→マユーラーサナ/マユーラアーサナ
ムードラ→ムドラー
ナーディ→ナーディー

p. 52
アクハラ→アカーラー

p. 54
ブラーマニズム→ブラフマニズム

p. 58
アルヤン宗教→アーリヤ人の宗教

p. 62
ヴァジュロリー・ムードラ→ヴァジュローリー・ムドラー
サットヴィック・サダナ→サートヴィク・サーダナ

p. 63
マハラジャ・ランジェート・シンハ→マハーラージャー・ランジート・シング

p. 67
アルヤ・サマジ→アーリヤ・サマージ

p. 76
ウルドヴァ・ダヌラサナ→ウールドゥヴァ・ダヌルアーサナ
アドムカヴァルコナサナ→アドームカ・ヴリクシャアーサナ

p. 89
ネティ・クリーヤ→ネーティ・クリヤー

p. 93
ジュナーナ→ジュニャーナ

p. 133
パンディツ、サドゥス→パンディット達、サードゥ達/サドゥー達
武闘派アクハラ→武闘派アカーラー

p. 148
ヨガカルヤ・サンダラム→ヨーガアーチャーリヤ・スンダラム

p. 151
ヨガ・ミマムサ→ヨーガ・ミーマーンサー
マニブハイ・ハリブハイ・デサイ→マニバーイー・ハリバーイー・デーサイ

p. 157
シーガラモクシャシャヘテー→シーグラ・モークシャシヤ・ヘートゥフ

p. 159
プラクルティ→プラクリティ
プルシャルタ→プルシャアルタ
サムスカラヴァサナ→サンスカーラ・ヴァーサナー

p. 160
サルタン→スルターン

p. 168
ジャムバナサン→ジャンブナータン

p. 222
ヨガ・ソパーナ・プルヴァカツシュカ→ヨーガ・ソーパーナ・プールヴァチャトゥシュカ
プルソッタム→プルショーッタム

p. 230
デシカチャ→デーシカーチャール

p. 235
シャーマ→シャルマー




インド諸語の長音・短音については,単に統一・一貫性という観点から必要なだけで,ヒンディー語では実際には1.5長くらいですから,短音で示しても大過はありません.
しかし,一方を長音にしたにもかかわらず,他方を長音で表記しないという一貫性の無さは問題になるでしょう.
khaやthaなどの帯気音については,カタカナでは,カやタと表わすしかないでしょう.
神経質な人はハの小字を右下につけたりしますが,通常の日本語に馴染まず,書くのも読むのも,面倒すぎます.
日本語の発音の場合,実際には,語頭のkaは,khaになってることもあります.つまり,日本語では帯気・無気の区別がないので,どちらも「カ」で構わないでしょう.
thaは,舌を歯に挟んだ英語のthではなく,タの帯気音です.サとするのは,単に,インド諸語の無知に由来する誤りです.
しかし,たまに,アメリカにいるインド系2世だと,現地の発音に合わせて,Raghunathan(ラグナータン)が,ラグネイサンと発音させている例もありますので,そのあたりは注意が必要です.
caは,チャです.カではありません.
yogacaryaはヨガカルヤではなく,ヨーガ・アーチャーリヤ(yogācārya < yoga-ācārya)です.
ここになると,サンスクリット語におけるサンディ(連声法)の知識も少しは必要ですし,元の単語を想定する知識も必要になります.

śīghramokṣasyahetuḥは,そのままサンスクリット語なので,サンスクリット語の知識がないと,さすがに分からないでしょう.
英語原書p. 120には,スペースなしで,śīghramokṣasyahetuḥとありますが,通常なら,śīghramokṣasya hetuḥとスペースが必要です.
さらに,合成語内の語を分かつと,śīghra-mokṣasya hetuḥとなります.速い解脱の原因,という意味です.

アーサナ(坐法,ポーズ)については,サンスクリット語がそのまま使われますので,サンスクリット語の知識がないと無理です.『ヨガ・ボディ』76頁には,いくつかのアーサナ名が列挙されています.

最も酷いのが,「アドムカヴァルコナサナ」です.

このカタカナを見ても原語が想定できないほどです.

原書p.59には,adhomukhavṛkṣāsanaとあります.

adho-mukha-vṛkṣāsana < adho-mukha-vṛkṣa-āsana

です.直訳すると,下向き・顔・木・坐法です.つまり,顔を下に向けた木のポーズということです.

どこをどうすれば,vṛkṣāが「ヴァルコナ」になるのでしょうか.非常に興味深い間違いです.




インド文化やサンスクリット語,あるいは,ヒンディー語,カンナダ語,タミル語など現代諸語を含めたインド諸語の知識もなしにヨーガの研究書を,普通の英語本を訳すように日本人が訳すとどうなるか,という実験の場としては,様々なヴァリエーションの過誤を提示してくれているという点で,興味深い訳本です.

喜多氏の「アルヤン宗教」の原書表記(p. 45)はAryan Religionです.普通は「アーリア/アーリヤ人の宗教」と訳すでしょう.

また,『ヨガ・ボディ』71頁には

19世紀に市民権を奪われたナーガ語を話す人びとが



とあります.原文p. 55には

The swell of disenfranchised nāgas during the nineteenth century ...



とあります.ここでいうナーガは,出家遊行者の一派を指しているのであって,言語集団を指しているわけではありません.

ナーガについては,前章の第二章で扱われています.喜多氏自身52頁で

ダシャナーミ・アクハラのナーガ・サンニヤーシンは



と訳しています.原文はnāga saṃnyāsins of the Daśanāmi akhāṛasです(p. 40).
つまり,ダシャナーミ・アカーラーの出家遊行者を特に指示していることが分かります.いわゆるサドゥーの一派を指しているのです.武闘派ヨーギンの一派を指しているというわけです.
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  1. 2016/12/24(土) 18:29:35|
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