Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

ルーツ・オブ・ヨーガ

ペンギンから出ています.

随分前からアナウンスだけは出ていたのですが,ようやく,今年の4月に出た待望の一冊.英語による二人の共著.

著者の一人は,現代ヨーガの前著『ヨーガ・ボディー』で知られるマーク・シングルトン.

そして,古典サイドからは,我らがジェイムズ・マランソン卿.正真正銘のサーです.(私もオックスフォードで一緒でした.)

内容はてんこ盛りです.

基本的には,ヨーガ実践に関わる基本的概念について,順に,概観的な解説とソースの英訳とを挙げています.

サンスクリット・ソースに関しては,写本の状態のものも数多くあります.

むしろ,重要な文献の多くが未だに写本の状態であるか,あるいは,非常にアンクリティカルな状態で出版されたものしかありません.

したがって,サンスクリット・ソースの原文は直接示さずに,英訳だけが提示されています.

ソースを校訂する作業は,まだまだこれから,ということです.

というわけで,あくまでも,暫定的に,現在時での結論の見通しだけを,ばっと示してくれたという感じです.

このような見通しが可能となったのも,ここ30年のオックスフォードのサンダーソン教授とその弟子筋の活動があったからです.

1998年のオックスフォードJRF研究員時代から,間近にその発展具合を目撃してきた身としては,その成果の一つがこのようなメジャーな本となって,一般読者の目に触れる形で現れたことに深い感慨を抱きます.

この本で,これまでのヨーガの皮相な見方も一気に変わることでしょう.

さて,構成は

1.ヨーガ
2.準備
3.ポーズ
4.調息
5.ヨーガの身体
6.ムドラー
7.マントラ
8.禅定など
9.三昧
10.成就
11.解脱

というように,いわゆるハタヨーガ文献で見られる基本的な項目に沿って,順に解説されています.

何がこれまでのヨーガ紹介と違うのかといえば,その渉猟する文献量です.

これまでのヨーガ紹介であれば,YSあたりから,一気に1000年飛び越えて,ハタプラディーピカーなどの後代の文献に飛ぶのが常套でした.

その間の1000年はどこにいったのだ?という疑問は等閑に付したまま,YSにソースを求める無理な歴史観がありました.

それが,本著では,それぞれの概念の初出に注意しながら,関連する膨大な文献群を写本も含めて渉猟し,整理して示してくれています.

多くの文献がこれまでのヨーガ関連二次文献ではほとんど触れられることのなかった文献です.

年代に沿った文献一覧は,イントロの39-40 (xxxix-xl)に示されています.

タントラ文献,そして,ハタヨーガ文献の多くのタイトルが,読者の多くには馴染みのなかったもののはずです.

6-10世紀頃の間では,
ニシュヴァーサタットヴァサンヒター,
ヴィナーシカ,
ヴァイローチャナアビサンボーディスートラ(大日経),
マンジュシュリヤムーラカルパ,
ブラフマヤーマラ,
ヘーヴァジュラ,
ジャヤドラタヤーマラ,
ムリゲーンドラ,
キラナ,
パラーキヤ,
マタンガパーラメーシュヴァラ,
サルヴァジュニャーナウッタラ,
シッダヨーゲーシュヴァリーマタ,
マーリニーヴィジャヤウッタラ,
スヴァッチャンダ,
ネートラ,
カウラジュニャーナニルナヤ,
クブジカーマタ,
ヴィマーナアルチャナーカルパ,
パードマサンヒター,

が挙げられています.

いずれも,「彼が研究していたもの」「あの時に一緒に読んだもの」など,懐かしく想い出されるものばかりです.

ハルとドミニクの共著がニシュヴァーサ.

マルチンがマンジュシュリヤ.

シャーマンやチャバがブラフマヤーマラ.

ドミニクがキラナとパラーキヤ.

ソームデーヴが博論でやっていたのが,マーリニー.

ハルがヘーヴァジュラ.

ユーディットがシッダヨーゲーシュヴァリーマタ.などなど.

一個一個の研究成果でヨーガに関連するそれぞれの事項が,この一般書においては,分かりやすい形で提示されています.

1000年以降の文献では,タントラ文献群のほか,数多くのハタヨーガ,あるいは,その前駆となる文献群が扱われています.

11世紀
ヘーマチャンドラのヨーガシャーストラ
スパンダサンドーハ
アムリタシッディ
カターサリットサーガラ
ヴィマラプラバー

12世紀
ヴァジュラヴァーラーヒーサーダナ
ヴィシュヌサンヒター
アマナスカ
シャーラダーティラカ

13世紀
サンギータラトナーカラ
ヴァシシュタサンヒター
チャンドラアヴァローカナ
マツェーンドラサンヒター
ヴィヴェーカマールタンダ
ゴーラクシャシャタカ
ダッタアートレーヤヨーガシャーストラ
ジュニャーネーシュヴァリー

14世紀
ティルマンティラム
アパロークシャアヌブーティ
ヨーガターラーヴァリー
シャンカラディグヴィジャヤ
アマラオーガプラボーダ
ヨーガビージャ
ケーチャリーヴィディヤー
シヴァサンヒター
ゴーラクシャヴィジャヤ
シャールンガダラパッダティ
ジーヴァンムクティヴィヴェーカ

15世紀
シヴァヨーガプラディーピカー
ハタプラディーピカー
マハーカーラサンヒター

16世紀
ミラガーヴァティー

17世紀
ハタラトナーヴァリー
ナーダビンドゥウパニシャッド
ヨーガシカーウパニシャッド
サルヴァアンガヨーガプラディーピカー

18世紀
ラージャヨーガアムリタ
シッダシッダーンタパッダティ
ヨーガマールガプラカーシカー
ハンサヴィラーサ
ゲーランダサンヒター
ブリハットケーチャリープラカーシャ
ハタプラディーピカー(長版)
ハタタットヴァカウムディー
ジョーグプラディーパカー
ハタアビヤーサパッダティ

この他に,チベット語やペルシア語の文献も一部に挙げられています.

ケーチャリーは,マランソン卿自身が博論で手がけた文献です.

オックスフォードでのM卿の後輩にあたる若手,ジェイソンの研究も,ハタヨーガ研究においては重要です.

ヴァジュラヴァーラーヒーは,これまた,サンダーソン弟子のエリザベスの博論.

我らがKengo Harimotoのヨーガスートラバーシャヴィヴァラナ研究もイントロの24頁で言及されています.



ともあれ凄い一般書が出たものです.

英訳に対応するサンスクリット原文が挙げられていないのが返す返すも残念ですが,そんなものをクリティカルにつけていたら,幾ら時間があっても足りないでしょう.なにしろ多くが未だまともに校訂のないようなテクストばかりですから.

それぞれの項目について,歴史的に正確な知識を得ようと思えば,それぞれの章を参照すればよい,という仕組みになっているので非常に便利です.

(他の文献でもそうでしょうが,特に)ヨーガ文献の場合,歴史的に堆積してきた様々な要素が一書において混交しているので,歴史的堆積物を再度整理しないと,どの要素がどこから来たのか,その整合性の有無が,ひとつの文献だけを見ても,不明瞭です.

歴史的に解きほぐすという作業が欠かせません.

いろいろな流れの異なった思想が,同一の書物のなかに同居し矛盾する場合もしばしばあります.

そのような体系の矛盾についても,それぞれの章で丁寧に論じられています.

「これが正しいヨーガだ」「あれは間違った実践方法」というのが宗教家やヨーガ実践者の可能な一つの態度でしょうが,研究者の見方としては,「この要素はここから」「この要素はここが初出」ということを説明する必要があります.

慣れない多くのサンスクリット文献名に一般読者は戸惑うかもしれません.

しかし,登場人物の多い物語と同じで,細かく歴史をひもとこうとすれば,こうならざるを得ないでしょう.

500頁を優に超す気合いの入った書物が18ドルで読めるのですから良い時代になったものです.

表紙にあるのは逆さづりの苦行者の絵.

意外に地味な表紙です.

その苦行の意味するところは,本書を読んでいくと明らかになるでしょう.

Roots of Yoga
Translated and Edited with an Introduction by
James Mallinson and Mark Singleton
Penguin Books
40+540 pages
18$
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  1. 2017/06/19(月) 20:55:15|
  2. 未分類

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