Pratibhanusarini --- 九州インド哲学ブログ2

On Indian Philosophy and Buddhist Studies

シンシャパー

「これは木である.シンシャパーなので」(vṛkṣo ayaṃ śiṃśapātvāt)と聞いただけで,自性因にうんざりの推論アレルギーの人は「またか」と思うかもしれません.

ダルマキールティに出てくる木の例としておなじみのシンシャパー.

牛や壺とならんで,単語の意味としての普遍・共通性を論じる場面で登場します.

牛は,垂肉・こぶ・尻尾・蹄など,部分に特徴があります.

壺は,ぽっこりと膨らんだお腹の形状もあるでしょうし,また,水運びなど,明確な目的を持っています.割れると消滅するという無常性の点でも便利といえます.

木は,下位の分類が簡単に挙げられる点で便利です.(牛もシャーバレーヤやバーフレーヤなどが挙げられますが.)

具体例としてあげられるのがシンシャパーというわけです.

これはディグナーガに遡るようです.

それ以前だと,語意論の文脈で決して一般的な例というわけではありません.

パーニニには確かに既にシンシャパーへの言及があります.

しかし,木というと,一般的なのは,プラクシャ,ニヤグローダ,カディラ,ダヴァ,パラーシャなどです.

パタンジャリの『大注解』や,ハルトリハリの『文と単語』などが挙げられます.

ヴァーツヤーヤナの『論理学経註釈』を挙げてもいいでしょう.

バラモン文化になじんだ身であれば,祭具の木材として用いられるパラーシャやカディラが,やはり,木として挙げやすい例となります.

ディグナーガの意図がどこにあったかはわかりませんが,ともあれ,インド哲学の語意論史的に眺めれば,少し浮き出た例であることは確かです.

このシンシャパー,Dalbergia Sissoo,つまり,インディアン・ローズウッドです.

高級家具やギターの木材としておなじみ,バラ香のする木材です.

チャラカサンヒターには,植物の髄から作る酒の材料としても挙げられています.

西岡直樹さんの『インド花綴り』(p. 200)によれば,薬の材料にもなるようです.

産地はインド南部.

仏教のパトロンには街の商工が多かったでしょうから,それも考えれば,高級家具・装飾具材として有用なインディアン・ローズウッドが真っ先に挙げられるのも納得のいく気がします.




ポーランドであったインド論理学関係の国際学会でのこと.

ワルシャワを桂先生と歩いていると,アメリカの若手研究者が,向こうから歩いてきました.

テクストデータが入ったパーム片手に「シンシャパー」がどうのこうのと,背の高いギロンさんと議論していました.

一緒に座ることに.

ワルシャワっ子も,まさか,日曜の真昼間からカフェでシンシャパーが論じられるとは思わなかったでしょう.

ちなみに豪快なギロンさん,昼食後の学会でOHP片手に発表ですが,その口に爪楊枝はさまったまま発表しているのを見たことがあります.(もちろん,ジーンズです.)

インド関係学会のコードの緩さは,国際会議では相当です.

壇上で挨拶している「偉い先生」が,ジーンズにTシャツということも,よくあります.

そもそも,インドにいけばサンダル(チャッパル)生活が基本ですから,それも当然です.

わたしも,2年間,サンダルしか履いたことがありませんでした.


京都での世界サンスクリット学会でのこと.

オーストラリアからの先生は,なんと,足元がクロックスでした.

「いやー,家から出てきたら,これだった.これしか持ってきてないよ」とのこと.

そのまま,国際学会が終わった後,京大の哲学でも小さな発表.

当然,クロックスで,学生と質疑応答していました.




ちなみに漢訳では申恕(波),尸舍(婆).

0099_,02,0108a28(01):汝等當行共至申恕林。爾時世尊。與諸大衆。到申恕林。
0099_,02,0108a29(02):坐樹下。爾時世尊。手把樹葉。告諸比丘。
0099_,02,0108b01(01):此手中葉爲多耶。大林樹葉爲多。比丘白佛。

と仏伝にあります.釈尊もなかなか頓知の効いた人です.
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  1. 2010/02/20(土) 10:34:59|
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